アスベスト被害川重と川崎造船をあわせて18人死亡

 尼崎市に工場のある大手機械メーカのクボタに対し、アスベスト(石綿)が原因と見られる中皮種で死亡した元従業員の家族や周辺住民の告発により、アスベスト被害が大きな社会問題となっています。7月14日の神戸新聞は、アスベストが原因と思われる健康障害が原因で、川崎重工(株)と川崎造船(株)併せて13人死亡していたと報道しました。その後、9月9日の日本経済新聞では川崎重工神戸工場でさらに7人が中皮種と肺がんを発症し、内5人が死亡していたと報道しており、川崎重工(株)と川崎造船(株)で18人死亡していたことになります。

 アスベストが「発がん物質」と米国で指摘されたのは1935年とかなり早い時期でした。1964年には米国の「ニューヨーク科学アカデミー」の国際会議で、肺がん、中皮種を発生させるとする警告が「勧告」として出されました。1972年には世界保健機関(WHO)や、国際労働機関(ILO)がそれぞれ危険性を指摘しており、フランス・ドイツなどヨーロッパ各国では1980年代に全面使用禁止にしています。
 にもかかわらず日本では、1960年代の高度成長期から建物や製造現場でアスベストが大量に使われ、1970−90年代初めにかけて輸入のピーク期を迎えました。政府は1971年に、アスベスト製造加工工場での吸引防止策などを盛り込んだ「特定化学物質等障害予防規則」を作りましたが、これは工場内だけでした。また、旧環境庁も委託調査で周辺住民の健康被害を認識していましたが、89年まで排出基準を作りませんでした。1975年になってやっとアスベストの吹きつけを禁止しましたが、既に使われたアスベストの撤去は行っていません。また、特に毒性の強い青色・茶色石綿は95年まで製造され続け、政府がアスベストを原則禁止にしたのは2004年になってからです。それでも「代替品の無いもの」は除かれ、完全禁止は2008年まで先送りされています。

 このように危険が叫ばれつつも長年にわたって企業活動が優先され、労働者や近隣住民の健康は軽視されてきました。その結果今日大きな問題となって表面化してきているのです。ここへきて大企業各社は被害の実態を公表していますが。ここまでアスベストの使用を野放しにしてきた国と企業の責任は重大です。
 政府は8月26日、アスベスト問題に関する閣僚会議を開き、石綿による健康被害に対応するために、特別立法で救済する方針を決定しました。決定内容は、「来年の通常国会で新法を制定する」、「2008年としている石綿全面禁止時期の前倒しを検討する」としていますが、具体的な行政責任は明確には認めておらず、新法による救済内容や補償基準・範囲、財源なども明らかになっていないため、患者や被害者の家族からは不安の声が上がっています。

 6月に新社長に就任した大橋社長は就任の挨拶で、「カワサキの技術と製品で21世紀の地球環境に貢献」と題して「風力やバイオマス発電システム、RPFなどの廃棄物エネルギー再生システム、クリーンエネルギーであるLNG船、LNGタンク、等環境保全に貢献する川重の高い技術力」をとくとくと述べ、ビジネスと地球環境保全への貢献を両立させることが21世紀のグローバル企業として重要性を持つと述べていました。しかし地球環境保全を重要な柱として社長に就任した1ヶ月後、皮肉にもアスベスト被害を公表することになりました。「地球環境保全への貢献」というなら、一刻も早く全従業員を対象とした健康調査と、全社のアスベスト使用状況の調査を行い、全てのアスベストを会社から早急に撤去すべきです。

(05.09.25)