川崎重工 2010年代の経営業績の実態(『中計2019』批判の序として)


2000年代の分社時代から2010年の再統合へ

2011年以降に入社された従業員の方々は、2002年10月から2010年10月まで、船舶海洋カンパニーが川崎造船、精密機械カンパニーがカワサキプレシジョンマシナリ(KPM)、そしてプラント・環境カンパニーが2005年4月から2010年10月までカワサキプラントシステムズ(KPS)として分社されていたのを、ご存じでしょうか?

分社をされた部門は、20世紀末期から21世紀初頭に掛け不採算部門として、「経営の自由度を高める」ことで、事業として成り立つよう努力を求められ、給与体系も人事制度も、独自色の強い経営を求められました。資金調達は本体に依存しつつ、新入社員の採用は、法制上、本体とは切り離された独自の活動となりました。

「身を切る経営努力」の結果、KPMとKPSは、2008年のリーマンショック後の不況の時期も含め、いつの間にか、川崎重工グループ全体の利益を支える中核事業となり、2010年、川崎造船を含め3社が吸収合併される形で再統合されたのです。

船舶海洋と車両は、今後分社?

『中計2019』では、「4カンパニー + 2構造改革カンパニー」との方針で、またぞろ、事業単位の分離が待ち構えているように見えます。この間、船舶海洋カンパニーも、車両カンパニーも、大幅な赤字経営が続き、事業を存続させるか否か?の検討が加えられたようですが、今後は「成長への道筋を描きづらい事業への経営資源の投入を抑制」すると2019年11月の中央経営協議会で述べています。

この辺りの基本方針は、実際には、上述3社の分社が解消された2010年に策定された『中計2010』の前提となる『Kawasaki事業ビジョン2020』で、既に「事業の構造改革や縮小・撤退」が謳われており、この間チグハグに継続された方針です。

10年間の経営業績指標

『中計2019』の内容を読み解くに当たっては、2010年に遡って中期経営計画を検証することも、必要と考えますが、取り敢えずは、2010年の少し以前から経営業績の系譜とも言うべき経営指標(別ウィンドウが開きます)の変動を見てみましょう。

見ての通り、おおよそ、売上高、純利益、期末現金残高、利益剰余金で数値が膨らんでいることが伺えます。D/Eレシオも改善されています。

この間、法人税率が2007年は30%であったものが、漸減し、2018年は23.2%まで低下しています。これを反映して、川重の納めた法人税は、2011年から18年までの合計が、1,156億円ですが、30%税率と比べると259億円程安くなり、その分の税金が利益剰余金に化けたと言えます。
同じ期間に、配当に回した利益は949億円。配当性向を川崎重工は30%以上と方針化しているので、低い税率が配当性向を支えているとも見えます。 

誰が得した?

数値だけ見ると、首を傾げたくなるのは、「株価」です。この間(2019年まで)、日経新聞の株価指数で判るように、相場は2007年比で1.55倍に上昇しているのに、川重は7割まで落ち込んでいます。経営指標だけでは計り知れないところで、株主には大いに不満が残るところなのでしょう。

従業員の平均年収も、リーマンショック前の2007年度の平均と比べると、おおよそ横ばいですし、労働時間も有給休暇取得日数も、殆ど横ばいで、色々中計基本方針で繰り返し「従業員の協力」をお願いしている割には、労働条件・労働環境が改善したようには見えませんし、実感も湧いてきません。 

2005年から導入された業績連動型一時金制度では、賞与は、黒字の業績が確定して初めて支給額が決定される、言わば、「成功報酬」です。給与だけが、言わば固定された部分で、本来生活費の一部に成ってくる一時金が変動するため、給与がベースアップされないと、年収総額は不安定なままになってしまいます。一見、賞与制度の全社業績反映部分の上昇カーブが楽しみな印象を従業員に与えますが、「捕らぬ狸の皮算用」に陥ります。この間の平均年収が横ばいなのも、ここに原因のひとつがあります。

つまり、株主も、従業員も、この10年の経営業績を、誰も喜んでいないのでは、ないでしょうか?

「K-Win活動」と『私たちの職場綱領』のそれぞれの立場

日本共産党川崎重工委員会の『私たちの職場綱領』で、「正規・非正規、関連企業の労働者も含め、8時間労働で普通に暮らせる賃金にする」と謳っていますように、欧米先進国並みに近づける努力=まずは残業代に頼らない賃金水準の確保=「8時間労働で普通に暮らせる賃金」が、必要かと思います。

この間、会社が取組む「K-Win活動」での触れ込みは、「業務改革による生産性向上の実現は、従業員の能力最大発揮やITシステムによる能力拡張を通じて、今後の労働人口減少社会において企業競争力維持のための重要な施策。従業員にとっても、ワーク・ライフ・バランス向上に寄与する有益な取り組みと考えている」(2019.11.26 中央経営協議会での会社回答)ということです。

中途半端な発言ですが、これを『私たちの職場綱領』で紹介した「働く人々の尊厳が大切にされ、能力が十分に発揮できる職場をめざして」と比較すると、能力に焦点を当てている点こそ似ていますが、趣旨が全く違っています。
「K-Win活動」では、能力は生産性を意味し、従業員の能力はITシステムで拡張されるらしい。ロボットに置換されるのが理想のようにも見えます。我々の言う能力は、経験・学習の積み重ね、キャリア形成を通じて豊かになっていく、個性に根差す楽しく充実感のある人間性の発露です。

労組の要請では、「働き方改革と柔軟な勤務制度」の目的が、「充実したプライベートの時間を過ごせるような利用しやすい制度」(2019.11.26 中央経営協議会での労組要請)とあります。仕事は”とっても辛いけど”と言うところから脱却する意識改革が無いと、能力の開花は難しい。労組が言うのであれば、「柔軟な勤務制度に誤魔化されず、『総労働時間の短縮』こそが、プライベートの時間を確実に増やすことに繋がる」と言う方向で、立ち向かって欲しいものです。

『中計2019』は、昨年5月に発表された『全社編』と10月に発表された『詳細編』で、基本方針の説明が錯綜して、判りづらい構成になっていますので、その解釈も難しくなっていますが、2010年からの系譜を追って、今後読み解いてみたいと思います。


(20.03.18)