行き場のない核廃棄物

1.はじめに
 2011年3月11日の福島原発事故以来、日本の原発はすべて停止していましたが、2015年8月11日九州電力の川内原発1号機が臨界に達し、再稼働しました。
 これを皮切りに、政府ならびに電力会社は次々と原発の再稼動を行うべく動いています。
 2015年末現在、福島第一の6基を初めとする廃炉が決まったものを除き、商用運転が可能な原子炉は43基ありますが、川内1・2号機が営業運転を再開、高浜3・4号機と伊方3号機が再稼動に向けて準備中となっています。このうち高浜3号機が2016年に入って再稼動、4号機は再稼動後送電開始をしようとしたとたんに電気系統のトラブルを起こして停止しました。そして滋賀県民が起こしていた原発停止の仮処分申し立てを裁判所が認めたことにより、再稼動後3号機は1ヶ月少しで停止、4号機はわずか3日で停止になりました。
 残る原発について各電力会社は原子力規制委員会の認可や自治体首長の同意を得るべく動いており、政府も「安全審査検査に合格した原発は再稼動させる」という姿勢です。また関西電力は高浜原発の仮処分に対する不服申し立てを行いました。
 福島事故の教訓も出尽くさず、暫定的な安全性基準をクリアしたことをタテに再稼動に進むことは危険極まりないことです。国民も安全性について疑問のある原発再稼動に反対の声が根強くあります。東京新聞が2015年9月に行ったアンケートでは再稼動反対が58%で賛成の37%を上回っています。他の調査でも同様の数字が見られます。
 もうひとつ、原発再稼動については安全性の問題だけでなく、使用済み燃料の処分問題が棚上げにされたまま増え続けるという問題があります。
 本稿ではこの使用済み核燃料に絞って考えてみたいと思います。

2.核燃料サイクル計画の破綻
 左の図は政府・電力会社が描く核燃料サイクルです。
 左側、原発で燃やされた使用済み核燃料には未使用のウラン235、プルトニウム、その他の放射性物質が含まれています。
 使用済み燃料は、再処理によってウラン235は燃料として再利用、プルトニウムはウランと混ぜてMOX燃料として原発で燃すか高速増殖炉で燃やし、残ったものは高レベル廃棄物として保管、廃棄が考えられています。
 再処理については現在すべて海外で行われ、その後日本に戻されていますが、再処理工場を日本に作ろうということで青森県六ヶ所村で建設が始まったものの、ことごとく試験が失敗して未だに一度も稼動していません。
 ということは再処理されたものを含めて、使用済み核燃料はすべて各原発の使用済み燃料保管プールで溜まり続けることになります。現在これらを最終的に保管する場所はありません。だから「トイレのないマンション」と呼ばれているのです。
 このような核燃料サイクルが破綻している現状で、原発の再稼動を進めたら保管プールは遠からず足らなくなります。2015年末現在で各原発の使用済み燃料保管量は平均で保管容量の約7割です。再稼動させたら数年で満杯になると予想されています。

3.行き場のない厄介物
 いったい使用済み核燃料の最終保管はどうなるのでしょうか。
 現在、中間保管場は青森県むつ市にあります。そしてその先、最終処分場はまだ決まっていません。それどころか候補地さえ決められません。どこも住民の反対が多いからです。一度自治体から名乗りを上げるところを募集しましたが、応募した自治体の住民が反対運動を起こしたために引っ込めてしまいました。
 政府が考えている保管方法は地中300mくらいのところまで穴を掘って埋めることです。世界的にも地中に埋める方法が採用されようとしていますが、フィンランドが初めて「オンカロ」という候補地を選定し、建設が始まりました。地下約500メートルのところに埋めるという計画です。他の国でも大体1000m未満での保管が考えられています。
 しかし日本列島にはいたるところに活断層が存在し、地震とは無縁の土地はひとつもありません。300m掘ってもその下でプレートが動いています。例えば2015年5月30日に小笠原諸島西方沖でM8.1 の地震がありました。震源の深さは約682kmです。
 プルトニウムの半減期(現在の放射線量が半分になるまでの時間)は2万4千年、自然界と同じレベルにまで減るには約10万年かかります。その間に巨大地震が起こらないという保証はありません。近いうちに南海、東南海の地震が連続して起こるのではないかといわれています。300mの地下でもし保管している容器が壊れたらただでは済みません。
 このように、再処理工場も動かない、プルトニウムを燃やしてさらに増やす高速増殖炉「もんじゅ」も動かない、最終処理場も決まらない、すべてがないないづくしのままで原発再稼動をするのは、無謀と言うほかありません。

4.原発再稼動を中止し、脱原発を
 核廃棄物に対して、人類は早く無害化する技術を持っていません。ひたすら放射線が出るままに、自然に消えていくのを待つしかないのです。先にも書いたようにそれは10万年もかかります。
 そもそもはアメリカで核兵器の開発のために作られた原子炉、後始末のことは検討もせずにこれまで進んできた結果がこれです。
 だから福島の事故の後始末を含め、廃炉やより安全な最終処理の技術開発が急がれているのです。
 それを無視して行き場のない核廃棄物を増やし続ける政府や電力会社、「原子力村」と呼ばれる原発関連企業の態度は無責任であり、国民の安全を脅かすものです。
 原発再稼動については、いずれの世論調査でも反対が過半数を超えています。「核のゴミを増やすな」というのが国民の声です。政府も電力会社もこの声を聞き、再稼動はやめるべきです。
 再生可能エネルギーの促進こそが急務です。

(16.03.21)