労働時間って何ぁに!

フレックスタイム制度の凍結と個別時差出勤制度の導入

 川崎重工は、10月24日の生産専門委員会において、現在、事務・技術職の従業員に採用している「フレックスタイム制度の凍結と個別時差出勤制度の導入について」の制度変更を組合に提案しました。
 その後、11月16日の同委員会で、新制度の「凍結の趣旨と内容の解明」を行い、引き続き検討していくことを確認しています。
 会社は、なぜ制度変更を提案しようとしているのか?それによって事務・技術職の従業員の労働時間実態はどのように変わるのか?について、労組ニュース「第1510号」・「第1513号」と職場の声をもとにして、考えてみたいと思います。

<労組ニュース1510号:会社が述べる提案趣旨>
 フレックスタイム制度は、「従業員の裁量により労働時間を適当に配分し、効率的な業務遂行を行う目的」として、1990年より会社主導で導入されました。しかし、会社は、この制度が「最近になって弊害が目立ってきた」ため、この制度を凍結する提案をしてきました。それでは、会社が述べる凍結理由を見てみましょう。
 (1) 従業員の健康管理の推進と過度な長時間労働の削減
 この趣旨は、「所属長は、従業員の健康管理を適切に行うため、出退勤の把握を含め、しっかりと総労働時間の管理を行わなければならない。・・・中略・・・上司が時間管理ができにくい仕組みになっている。」ことから、「・・・特に長時間残業が続く職場においては、心身両面で健康障害を発生する確率が高く・・・」また、「2001年度以降、・・・中略・・・年々総労働時間が増加している実態」からして、「むしろ過労による健康障害の防止やメンタルヘルス問題の予防という観点から制度見直しを図っていく」ことが必要だと述べています。
 (2) 適正な労働時間管理の徹底
 この趣旨は、「フレックスタイム制は、1ヵ月の期間で労働時間を把握するため、・・・中略・・・所属長は1日の勤務ごとに時間外労働を把握することができないのであり、管理が難しい。故に、36協定に定める時間外労働限度時間超過の手続きが適正にされないなどの問題が生じる危険性も高く、・・・中略・・・日々の時間外労働を把握するのが望ましい。」と述べています。その趣旨説明の後、従業員がこの制度を悪用しているという点を通常勤務者に代弁させるように「一方、従業員においても、・・・中略・・・通常勤務者から見れば遅刻と受け取られるような事情の時にフレックスを使用するというケースもあり、適正な労働時間管理を行っているとはいい難い。」と述べています。最後に、「こうした双方の馴れ合いによる時間管理から脱却するためにも、現行の制度について一旦見直しを図る必要がある。」として、管理者・従業員の双方に問題があるから、この制度を見直すとしています。

 この制度が導入されてから15年間、会社は、自ら述べた趣旨説明に気付かずに、この制度を運用し続けたのでしょうか? なぜ今、フレックスタイム制の見直しなのでしょうか? などなど、職場では、疑問の声が出ています。

 それでは、会社の提案する「個別時差出勤制度」を現行のフレックスタイム制度と対比して見ていきましょう。
項 目 個別時差出勤制度(案) フレックスタイム制度
(出勤日20日の場合)
1.所定労働時間 1日8時間 1ヶ月160時間
2.1日の勤務時間 8時間 コアタイム4時間
3.始業時間 7:00〜9:00の範囲で30分単位で選択 7:30〜10:00の範囲で選択
(8:00〜17:00通常勤務時間の場合)
4.始業時刻の決定者 会社が決定する(所属長承認) 本人の決定に委ねる
5.時間外の取扱い ・ 1日8時間を越える時間
・ 週40時間を越える時間
・ 1日勤務時間帯(7:00〜21:00)を越える時間
・ 月の所定労働時間を超える時間
6.勤怠の取扱い 届け出た始業時刻に遅れた場合は遅刻とする コアタイム(10:00〜)に遅れた場合は遅刻とする

 上表から見えてくることは、「始業時刻の決定者」は所属長であり、「勤怠の取扱い」で始業時刻に遅れたら遅刻とするという、フレックスタイム制度の基本であった「本人の決定に委ねる」という柔軟な労働形態から、会社の命令を絶対化しようとする強制的な労働形態への変更を狙っている、という意図が見え隠れしています。
 それとは別に、「フレックスタイム制度」が長年、事務・技術職の従業員に対するサービス残業の温床となって、実質的な労務費削減の手段となっていた事実からして、今回提案された「個別時差出勤制度」が、「所属長は、従業員の健康管理を適切に行うため、出退勤の把握を含め、しっかりと総労働時間の管理を行わなければならない。」と会社自らが述べているように、サービス残業の減少=実質的な労務費増加に繋がる可能性のある制度である点からして、なぜ会社は、「個別時差出勤制度」を導入する提案をしてきたのかという疑問が、改めて感じられます。このことは、組合の質問の中にある「今回の会社提案は唐突の感がある。」という言葉からも見て取れます。

<労組ニュース1513号:労使協議の内容>
 協議の中で会社は、「個別時差出勤制度導入時において、一時的に時間外労働が増えるかもしれない・・・」と述べているように、実質的な労務費増加に繋がる可能性のある制度である点を認めています。
 次に会社は、組合の「・・・日々の労働時間の把握は制度に関わらずできるはずだし、しなければならないことではないか。」という質問に応える中で、「フレックスタイム制度を凍結するとなれば、残るのは基本的に通常勤務か裁量労働制しかない。個別時差出勤制度は、通常勤務の変形であり・・・」という重大な発言をしています。この言葉から読み取れることは、この「個別時差出勤制度」は、「通常勤務の変形」であり、従業員の勤務形態を「フレックスタイム制度」という会社が感じている曖昧な勤務形態から、「基本的に通常勤務か裁量労働制しかない。」と述べているように、ニ択の勤務形態に変更しようという、会社の意図が見られます。
 組合は、質問の中で「・・・労働時間管理についてこれまでと異なる対策を施さないならば、フレックスタイム制度に替えて個別時差出勤制度を導入しても状況は変わらないのではないか。」と述べていますが、この点については、その通りであり、会社も「・・・同様の考えである。」と応えているように、早急に会社自ら述べている「・・・出退勤データの客観的な管理・・・」を実施すべきです。
 会社は、30年前に実施していた「タイムカード制度」を一方的に客観的な管理が出来ない「自己申請制度」へ、そして、「フレックスタイム制度」へと変遷させることによって、サービス残業の恒常化を意図的に創り出しましたが、労働監督署からサービス残業を摘発されて「出退勤データの客観的な管理」を迫られる中で、自ら提案せざるを得ないと考えられます。
 職場では、「今までのフレックスタイム制度の方が、会社も従業員からのサービス残業の恩恵も受けられるのに、なぜ変更するんだろう?」「フレックスタイム制度だと、不足時間分を残業時間分から回して帳尻を合わせていたので、会社は、従業員が回した時間分の25%分儲かっていたのに、なぜやめるんだろう?」などなど、疑問続出です。

<会社の狙いは何か>
 会社の狙いは、今後の労使による専門委員会での協議の中で、明確になってくると思いますが、現時点では、労務費増加に繋がっても以下の点を実施したいようです。
 (1) 「本人の決定に委ねる」という柔軟な労働形態から、会社命令を絶対化する強制的な労働形態へ。
 (2) 「通常勤務か裁量労働制か」のニ択の勤務形態への変更。(この点は、日本経団連が法制化を狙っている「イグゼプションプラン」という年収400万円を境として、それ以下は残業代を認め、それ以上は残業という概念を無くすという、方針に繋がっていると考えられます。)

<労働時間って何ぁに!>
 労働基準法では、「労働時間の対価に対して給与が支払われる」と述べられているし、「1日の労働時間は8時間、週40時間」など、労働時間の規定は明確です。しかし、これを守らなかったら労働者は、過労へ、そして、身心ともに健康破壊へと進行してゆき、最悪の場合は、突然死や自殺へと繋がります。
 このことは、2001年4月の厚生労働省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」の中で明記している「2-(1)使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。」などを各企業へ通達して以降、全国各地の企業が多数、サービス残業をさせた違法行為により摘発されている事実からも、待ったなしの日本の重大な課題です。
 発達した資本主義国の日本において、分業化された労働形態から働いた労働の成果を客観的に評価する手段は、労働時間以外にありません。
 事実、成果主義が声高で叫ばれている川崎重工でも、今もって成果に対する具体的な客観的評価基準を提示できない状態で、恣意的な上司の不明確な判断に頼っているのが現状です。
 会社は、今までに「自己申請制度」・「フレックスタイム制度」・「裁量労働制」などいろんな労働形態を従業員の中に持ち込んできたし、新たに「個別時差出勤制度」も持ち込もうとしています。
 私たち労働者は、会社側から意図的に持ち込まれた曖昧な「労働時間」の規定に対して、厚生労働省通達が述べているように、改めて「労働時間って何ぁに!」という、本当は命に関わる大切な問題を、家族・職場の仲間・組合・会社などと正面から向き合って、この機会に語り合うことが、労働者本人の将来・家族の将来・会社の将来、そして、労働力の維持発展という日本の将来にも繋がることだと思います。皆さんは、どのように思われますか?
 ご意見を、お待ちしています!

(05.12.23)