3−2.資本主義をどうとらえるか

花ちゃん:

いよいよ搾取のしくみの謎解きなのかしら?

太郎さん:

そうだよ!一歩一歩、踏み外さないように進もうネ!(P95)

3−2−1.利潤はどこから生まれるのか

太郎さん:

市場経済の法則である価値法則は、マルクスさんが発見した、というものではないんだ。マルクスさん以前に、イギリスの経済学者であるアダム・スミスさん(1723〜1790年)やリカードウさん(1772〜1823年)などの研究があって、価値法則のあらましは発見されていたんだ。マルクスさんは、それをより完全に仕上げるうえで大きな役割りをはたしたんだけど、発見者とは言えないんだよ!

花ちゃん:

それじゃ、なにを発見したの?

太郎さん:

資本主義をどうとらえるか、利潤がどこから生まれるか、ということは、まさにマルクスさんの発見〜〜〜!!経済学の歴史のなかでマルクスさんがはじめて解決した問題だったんだ。それと、いまでは誰もが使っている「資本主義」という名自体、名付け親はマルクスさんなんだよ。

花ちゃん:

利潤って、よく聞くのは、「安く買って高く売るからだ」とか、「コストダウンをして努力したから利益が出た」とかいう話だけど、それは、違うの?

太郎さん:

まず、それは違う!なぜ違うのか、それじゃどこから、利潤が生まれるかを、見てみよう!
 利潤がなぜ生まれるか、という問題は、本当にそれまでの経済学が難問中の難問としてきたものだったんだよ。
 市場では、どんな商品も、平均的に見れば、その価値によって売買される。つまり、商品交換では、同じ価値のものが交換される、これが価値法則なんだ。
 しかし、これが法則だとなると、利潤など出てくる余地はないよね。市場経済では、商売がうまく、相手をだまして儲けをあげるという人も出てくるけど、それは市場の例外であって長続きすることはできないんだよ!

花ちゃん:

 同じ価値のものが交換されて、どうして利潤が出るの?

太郎さん:

だから、難問中の難問って言っただろ!
 いったい価値どおりの交換を鉄則とする商品経済社会で、資本家は、いったいどのようにして利潤を手に入れるのか。多くの学者がいろいろなアイデアを出したんだけど、納得できる答えはどうしても出てこない。
 社会主義者の側も、資本が労働者を抑圧しているという告発はやるのだが、利潤の秘密を説きあかせないので、本格的な社会主義論もなりたたない。マルクスさん以前のある社会主義者が「利潤とは詐欺である」、資本家が労働者をだまして詐欺的な手段で不当な儲けをあげているのだ、といって有名になったんだけど、そこからは「詐欺をやめろ」という要求しか出てこないんだ。
 このように、資本主義的利潤の秘密は、経済学者の側も、社会主義者の側も、解決できないで困っていた難問だったんだ!

花ちゃん:

マルクスさんは、利潤の秘密を解き明かしたの?

太郎さん:

そりゃそうだよ!解き明かせなかったら話が終わっちゃうよ。しかし、マルクスさん自身にしても経済学をはじめてから、この解決にいたるまでには、ずいぶん時間がかかったんだよ!結局、この問題を解き明かしたのは、「資本論」のための最初の草稿を書いているなか(1857年)で、ようやく到達したんだ。それが、「剰余価値(じょうよかち)」の理論で、この発見が、資本主義のあらゆる秘密を解き、その発生から没落にいたる資本主義の全生涯をたどる、なによりの理論的な基盤を提供したものなんだよ。マルクスさんが、39才の時だよ!

花ちゃん:

「剰余価値」?なに、なに、なに、それ?

太郎さん:

剰余、つまり「余っている価値」ってことになるのかな!

花ちゃん:

「余っている価値」って言うけど、先っき、価値どおりに交換しているって言ってたじゃないの!ムジュン!!

太郎さん:

矛盾の解明や秘密のからくりを、マルクスさんやエンゲルスさんに聞いてみよう!(P97)

太郎さん:

剰余価値の発見にいたる過程を、エンゲルスさんが「反デューリング論」のなかで解説しているんだ。それを見てみよう!
(イ)エンゲルスさんは、資本家が貨幣を取引に投入し、増加分をあわせてそれを回収できたとき、その増加分を「剰余価値」と呼ぶのだと、剰余価値の定義を明らかにしたうえで、それがなぜ生まれるのか、この謎が謎であるゆえんを説明しているんだ。
(ロ)「この問題を解決したことが、マルクスの著作(資本論)の最も画期的な功績である。これが解決されたことは、それまで社会主義者もブルジョア経済学者も同じようにまっくら闇のなかで手さぐりしていた経済学的領域に、明るい光をそそいだものであった。科学的社会主義は、この解決とともに始まり、この解決を中心として成立している」と、マルクスさんの功績の大きさをたたえているんだよ!

花ちゃん:

「科学的社会主義」って言葉は、日本共産党が自分でつくったんじゃなくて、マルクスさんやエンゲルスさんが使っていたんだね。
 それで、増加分の話は、どうなったの?早く話を続けてよ!

太郎さん:

「科学的社会主義」の語源は、花ちゃんの言うとおりだよ!それじゃ話を続けようね!
(ハ)では、どういう解決をしたのか。投資した以上の増加分は、ものの売り買いから生まれるわけにはゆかない。そうなると、それは、買った商品を使用する過程で生まれるほかはない。商品のなかで、その消費が価値の創造となるようなものがあるだろうか。

花ちゃん:

そんな商品って、あったっけ?金かな?ダイヤモンドかな?消費すれば増えるものなら、プルトニウムか、私の借金かな?

太郎さん:

どれもブ〜〜ッだよ!
 マルクスさんは、分析をすすめて、「労働力」という商品が、それを消費する過程で、価値をつくりだすという独特の性質をもっていることに注目したんだ!

花ちゃん:

「労働力」って、労働者の働く力のこと!直訳しすぎかな?

太郎さん:

そのとおりだよ!謎解きは、始まったばかりだから先に進むよ!
 労働力を買う、つまり労働者を雇うときには、資本家は、価値法則にしたがって、労働力の再生産に必要な費用、つまり、必要生活費を、賃金として支払うんだ。それが6時間分の労働にあたるとしても、買った労働力の消費を6時間でやめなければならない、という決まりは別にないんだよ。いったん買った以上は、それをどう使うかは買った資本家の権利だということで、さらに6時間、合計12時間働かせる。そうすれば6時間分のねだんで買った商品(労働力)が、この商品を消費する過程で、12時間分の商品(労働の生産物)をつくりだす、ということになるんだ!
 この取引では、資本家は、価値法則に違反するような詐欺的なことはどこにもやっていないんだ。価値法則に忠実に行動しても、労働力という商品は、それを消費することが価値の生産だという特別な性質をもっているために、資本のための剰余価値を生み出してくれるんだ。
 マルクスさんは、このことを発見して、これを経済学全体の核心にすえたんだよ!
(ニ)エンゲルスさんは、剰余価値の発見がもつ意味にもう一度たちもどり、その大きな意義を、資本主義のしくみの中心となっている「結晶核」を明るみにだした、という言葉で表現しているんだよ!

花ちゃん:

サクシュのしくみの謎」という手品が仕上がったわけね!この手品のからくりを、資本家もブルジョア経済学者も、それと、労働者自身も、わかってなかったというのは、おもしろいわね!
 チョット待って!会社の上の人が言ってる「あなたたちは、固定費なんだから、遊ばせようが、働かせようが、会社の出費は同じだ、だからたくさん仕事を与えればよい」という意味が、わかってきたわ!!

太郎さん:

僕も解けぬ糸が、ほどけて、なにか見えてきたぞ〜〜ッ!!

花ちゃん:

太郎さんも頭のなかが、こんがらがっていたみたいね!手品のからくりがわかってくると、どんなことが見えてきたの?

太郎さん:

マルクスさんによる剰余価値の発見は、経済学の世界に大革命を引き起こしたんだよ!
 その例として、利子とか地代とかという問題があるんだ。銀行にお金を預ければ、利子が生まれる。土地を他人に貸せば、地代が入る。マルクスさん以前の経済学は、利潤も、利子も、地代も、まったく別個のものとして、ばらばらにとらえていたので、お金がなぜ利子を生み、土地がなぜ地代を生むのか、その秘密がまったく分からなかったんだよ!

花ちゃん:

それで、それで、マルクスさんはなんて?

太郎さん:

マルクスさんの剰余価値論は、それまで真っ暗だったこの分野をも、科学の光で照らしたんだ!
 労働者が生産の過程でうみだす「剰余価値」が分配される、一部が銀行に「利子」として譲りわたされ、他の一部は地主に「地代」として支払われ、資本家の手元に残ったものが「利潤」だという関係が、明らかになり、こうしてはじめて、科学的な銀行論、科学的な地代論というものが、成り立つようになったんだよ!

花ちゃん:

結局、労働者が生み出したものを、銀行や地主や企業家が、山分けしているだけじゃないの!!!

太郎さん:

怒りは、チョット、横に置いといて、他の例を見てみようね!
 資本主義社会の運動の仕方も、これまでの経済学者には、なかなか手のつけられない、多くの謎に満ちたものだったんだよ。
 それぞれの企業が、各個ばらばらな思惑で商品をつくっている資本主義の社会が、なぜ年々うまく運行してゆくのかも、それまでの経済学の手にあまる難問を提供していたし、この運行が周期的に大混乱におちいる、つまりほぼ10年ごとに、恐慌に見舞われるということは、それ以上に経済学者を悩ませた大問題だったんだよ。旧来の経済学は、そういう問題に取り組む手がかりさえ、なかなか見出せなかったんだ!!
 この問題にも、マルクスさんは剰余価値の理論を基礎にして、大胆で綿密な挑戦をし、科学的な解明をおこなったんだ。
 あらゆる分野で大革命を引き起こすだけの、すばらしく、巨大な力をもっていたんだよ。

花ちゃん:

太郎さん、私、思うんだけど、マルクスさんが「ジョウヨ価値」を発見してから約150年になるのよね!
 よく「こんな安い給料で、ここまで働かすか」とか、「どうせ同じことをするなら単価の安い派遣の人に切り替えて、本工を減らせば儲かる」とか聞くけど、これって、マルクスさんの発見を何となく理解してるってことかな?でも、サービス残業は論外として、私は、働いた分は、給料としてもらっているから、どこにも搾取されているという実感がないんだけど、これって、私が変なのかしら?

太郎さん:

ちっとも変じゃないよ!なぜなら、労働基準法では、働いた対価として給与が支払われると書かれているし、8時間を越えた残業時間に対しては、超過分がもらえるよね。つまり、僕たちは、小さい時から、働いた対価として給与が支払われると、教えられてきているし、法律自体もそのように明記されているんだ。
 しかし、本当は、会社との契約で働く前から、単価が決まっている、つまり「労働力という商品」を先に買われているんだ。

花ちゃん:

だんだん搾取のからくりが見え出したワ〜ッ!

太郎さん:

少し、冷静に、もう一度、剰余価値の秘密を下の表で見てみよう!(P101)

花ちゃん:

複雑な図と計算式で秘密がわかると思ったんだけど・・・!単純なのね!

太郎さん:

そうだね!この単純な図式で職場で起こっていることを考えて見ようよ!

(1)を「絶対的剰余価値の生産」と呼ぶんだ!
(2)を「相対的剰余価値の生産」と呼ぶんだ!

花ちゃん:

だんだんわかってきたワ〜ッ!
(1)の方は上司が、チョットばかりの割増をつけて「もっと残業しろ」と言ってることなのよね!
(2)の方は、上司が「もっと効率をあげろ」といって、次から次と仕事を押し込んでくることなのよね!それと正社員を派遣の人におきかえてゆくのも、これよね!

太郎さん:

花ちゃんが言ってることは、そのとおりだね!
 でも、資本主義には、必要労働時間を切り詰める、もっと本格的な方法があるんだ!
 それは、生産性が上がって、労働者の生活物質が下がると、それに比例して必要労働時間が短くなってくる、という方法なんだよ!つまり究極の(2)の必殺技ってとこかな!

花ちゃん:

だから、上司はいつも「生産性向上でコストダウン」と、毎日毎日同じことを繰り返し言っているんだね!でも、それが、私たちの賃下げにもつながっていたとは、ビックリ!100均ショップや安売り店で結構、なんでもそろって満足していたけど、これって、今の世の中では、だんだん生活レベルを知らず知らずのうちに、下げていっていたのよね!

太郎さん:

チョット前のところで、花ちゃんは「搾り取られている実感って、あまり感じない」って言ってたよね!今の時代、(1)のような露骨な、やり方を会社がやって儲けていたら、国内外から避難が集中するよね!だから会社は、僕たちが自らの意志で(2)を高めるために、「国際競争力を高めよう」とか「地球に貢献する」とか「頑張った人が公平に認められる賃金形態」などという目くらましを使って、本質を見えなくして頑張らせているんだよ!

花ちゃん:

これで搾取のしくみは、全部解けたの?

太郎さん:

チョット待った!実は、搾取を強める基本的な方法として、マルクスさんが「資本論」であげているなかに、もう一つの方法があるんだよ。
 これまでは、搾取の割合をみるのに「必要労働時間」と「剰余労働時間」の割合(剰余価値率)だけを問題にしてきたよね。
 しかし、資本家は、本来は、自分が投下した資本の全体をいつも考えて、資本全体にたいしてどれだけの利潤(あるいは剰余価値)を得られたかを問題にするんだ。
 だから、利潤の割合は、労賃の分としていくら投下し、それにたいしてどれだけの利潤が上がったかではなく、原料や機械に投資した分もふくめ、投下した総資本にたいしてどれだけの利潤が上がったかで、はかられるんだ!

花ちゃん:

なにか、わかったような、わからないような!先っきのような図式はないの?

太郎さん:

あるよ!経済学では、労賃の部分をV(可変資本)、原料や機械に投資した資本をC、剰余価値をmという文字で表わすのが普通なんだよ。図はないけど、式で表わすと、

☆2:利潤率=m÷(C+V)

・先っきの☆1の剰余価値率=m÷Vで表わされるよ。

・VやCやmに、自分なりに考えた数値を入れると、会社がやってる、いろんなからくりが見えてくるよ!

花ちゃん:

な〜〜んだ!これも簡単な式なのね!

太郎さん:

そうだね!でもマルクスさんは、こんな簡単な式から、労働者が仕事をする職場の環境の問題で、資本がなぜ手抜きをするのか、空気の汚れ、ゴミ、気温、安全装置の欠如など、健康を悪化させ、また災害を引き起こすこと間違いなしというひどい環境を、資本がなぜ放置しているのかを分析し、「労働者を犠牲にしての不変資本(Cの箇所)の節約」だとして、これは「人間を浪費する」体制だという鋭い告発をしたんだよ!
 また、「資本主義生産は、他のどの生産様式よりもずっとはなはだしく、人間、生きた労働の浪費者であり、血と肉の浪費者であるだけでなく、脳髄と神経の浪費者である」とも書いているんだ。これも現代に通じる重要な告発だよね!
 以上が、搾取を強める三つの基本的な方法なんだけど、こういうしくみが剰余価値の図式を手にしただけで分かってくるよね!ここからも、マルクスさんが剰余価値を発見した大きな意義を見ることができるね!(P105)

花ちゃん:

職場の上司や社長が、なぜ同じ言葉を繰り返すのかとか、公害を起こしてもなかなか認めようとしないのかとか、事故が起きても個人責任にしようとするのかとか、心身ともに疲れはてている労働者を自己責任でかたづけようとするとか・・・、いろんなことが見えてきだしたわ!
 利潤の源は、労働者の搾取だったのね!
 これから、資本主義はどうなるの?資本主義の行きづまりについて、最近、マスコミが異常なほど取り上げているけど!

太郎さん:

それじゃ、資本主義は、どうなってゆくのか、次の謎解きに進もうね!でも、この先は創造力と科学の目が必要だよ!